1887年のある朝、目覚めると、そこは2000年の世界になっているという設定ではじまるユートピア小説。
2000年のアメリカは、全体主義におちいることなく、理想的な社会主義を実現している。人々がまったく不平をもたずに、ある程度の自由裁量はあるとはいえ、決められた労働を決められた分量、おこない、それで社会全体が満足しつつ経済が還流するという、夢物語。20世紀以前に描かれたユートピア物語はまったくもって理想論だけでなりたつような物語が多く見られるが、本書では、最後にこれはすべて主人公が見た「夢」であることが判明する、まさしく「夢物語」であることを体現している。
本書で語られる2000年におけるボストンの生活では、クレジットカードや、今日の有線放送やインターネットにあたるような、電話を利用した音楽の配信サービスのような事柄が登場しており、豊かな生活と科学技術の発展が共存している様がえがかれている。20世紀以前に書かれたユートピア小説でこのように、科学技術を肯定するユートピア作品はまれであるといえる。これに反して、ウィリアム・モリスが本書の刊行された2年後に出版した「ユートピアだより」では、科学技術をいっさい排除したことによってなしとげられた、美しい芸術家たちのユートピアの姿が描かれており、モリスは、「ユートピアだより」をベラミーの書いた本書に対する反論として書いたという説もある。
また、本書は、大ベストセラーであり、19世紀当時のアメリカにおいて発刊後数年にして百万部以上を売り上げている。

原題「Looking Backward」1888
著者:エドワード・ベラミー(1850-1898)
(C)岩波書店