イギリスの物理学者、バナール若干27歳の時の論文。人類の未来を、「宇宙開発」「肉体の可能性」「創造的思考のありかた(それをおびやかすものとして、「悪魔」と称している)」について、考察をした学術論文である。しかしあまりにも先鋭的な思想のためにSFとして分類されることも多い。
スペースコロニー、テラフォーミング(惑星改造)、サイボーグ(改造人間)、精神のダウンロード、電子的ネットワーク上に構築される生命など、後のSFで用いられる多くの要素について、1929年当時に詳細に言及している。
中でもスペースコロニーの概念は1974年にG.K.オニール博士らのグループが発表したのがはじまりだと思われているが(TVアニメ「起動戦士ガンダム」におけるサンライズ公式宇宙世紀年表の中でそのように記されていた(現在は実際の史実になぞった部分の年表の記述は削除されている)ことがそのことの大きな要因ではないかと感じる)最初の発案者が実はバナールであるという事実に本書の重要性があるが、現在絶版であることが惜しまれる。
また、邦訳では改造人間のことを「サイボーグ」と記しているが、「サイボーグ」の語源はサイバネティック・オーガニズムであり、「サイバネティッ=サイバネティックス」という言葉は、1949年にアメリカの数学者ノーバート・ウィーナーが、「有機物と無機物の間(例えば動物と機械)など、異なる要素を結ぶ、通信と制御(フィードバッック)の理論」という意味合いで使用するまでは、こんにち、「サイバー」という言葉で浸透しているような意味では用いられていなかったので、
1929年に発刊した本書の訳文としては、単に「改造人間」と表記しておくほうが、原書の意味合いと時系列を考えれば適切であると感じる。
原題:「THE WORLD,THE FRESH AND THE DEVIL-An Enquiry into the Future of the Three Enemies of the Rational Soul」(1929)
著者:J.D.バナール1901-1971