SFのオールタイムズベストには必ずといっていいほどランクインしてくる名作。
著者は、映画「A.I.」の原作「スーパートイズ」の作者としても知られている。

太陽が膨張し、なおかつ地球は自転周期の変化によって永遠に 太陽に片面を向けてめぐり、太陽に向いた面は温暖化効果によって巨大な植物の繁茂する世界となった遠未来が舞台。
人類は文明を失い、体格も小さくなりながらも巨大植物の幹や枝のはざまでほそぼとと生き続けており、補食性の植物の脅威におびえながらくらしている。空にむかって網をはり、月にまでわたる、全長数kmの巨大なクモのような動く植物、「ツナワタリ」、人間の脳に寄生し、高い知能を持って人間を意のままにあやつるキノコ「アミガサタケ」これらの異様な生物たちは、すべてかつて生物の進化がアメーバのような単純なものから、脊椎動物と無脊椎動物に分かれ、ついで魚類、両生類、は虫類、鳥類、ほ乳類と、細分化しながら進化していった過程を逆にたどっており、自由に動きまわり、動物と区別のつかない植物たち、人間か動物か区別のつかないさまざまな獣人たちが登場する。
この流れは、宇宙がビッグバンにはじまり、拡張を続け、ある時点から収縮してもとの無の状態に戻るとする宇宙論にも通ずるものであり、また大乗仏教の語る宇宙観、成劫(形成=ビッグバン)・住劫(拡張)・壊劫(収縮)・空劫(無)という四劫とも同じであり、すべては流転し巡り続けるという考えにねざしたものである。
この世界観は、のちに多くの後に続く作品に影響をあたえ、特に椎名誠はSFの中で最高の作品と称し、
「アドバード」、「武装島田倉庫」「みるなの木」「水域」等、オールディスの世界観を踏襲したような作品を複数執筆している。
また、近年では、週刊モーニングに不定期連載している菅原雅雪の漫画「暁星紀」は、世界観から登場する生物にいたるまでの多くを本書になぞらえており、「暁星紀」は本書のコミックス版だと評されることも多い。

原題:「HOTHOUSE」(1962)
著者:ブライアン・W・オールディス(1925~)