遠未来の地球の姿をえがいたSF「地球の長い午後」で知られる、オールディスの近未来SF。
放射能の影響により、人間に子供がうまれなくなってより50年後の世界を描いている。
世界の平均年齢は70歳にたっしており、一番若い者でも50歳をすぎている。主人公はほぼ最後にうまれた世代の、50歳代なかばのひげ面の男。老醜をさらし、生にしがみつく人々の狂気をひたすらに暗く描写していくが、最後に、放射能の影響をうけず、人知れず山野で繁殖していた人類のうちのひとり、シャモイという少女が発見され、主人公の夫婦に保護されるという、希望を提示したかたちでおわっている。
この作品の中で、主人公が「最後の世代」にあたる自分たちが、下に続く世代がいないがために、死ぬまで、社会的には「若者」としていられる立場を幸運であるとしている点が興味深かった。
人類に子供がうまれなくなるということをメインテーマとしてあつかったSFは、あまり多くはないと思うが、(諸星大二郎の漫画「ティラノサウルス号の生還」1973年など)本書はそのさきがけではないかと思う。
原題:「GLAYBEARD」1964
著者:ブライアン・W・オールディス(1925~)
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