17世紀イギリスの神学者、哲学者、法律家、フランシス・ベーコンの描くユートピア物語。
太平洋に浮かぶ孤島、「ベンサレムの島」に漂着した主人公はそこで、「サロモンの家」という、あらゆる知識、技術を集約したアカデミーを中心とし、キリスト教の教義にのっとったて貞淑な国民を持つ理想国家の姿をみる。
「サロモンの家」は、ベーコがとなえる、「知識は力である」という信念にのっとった、学術研究組織の理想像であり、ベーコン自身、政府の要職を辞した後、パブリックスクールの名門、イートン校の学長をつとめたことから、本書を学術研究組織の実際の青写真として描いているといえる。
「サロモンの家」のしくみで重要なことは、発明、技術、発見の中で、それを世に出すべきかどうか、真に人類社会の発展に寄与するかどうかを審議することであり、場合によっては、それを政府にすら明かさないというものである。
つまりは発明を行なう科学者は、自らの行ないを戒める(ベーコンに言わせれば、信仰心を持つ)ことで、悪徳を助長するような発明、人類の脅威となるような発明を自粛し、真の科学の発展が促進される。というものである。ここでいう「科学の発展」という概念自体、単に、より豊かになりたいという、利己的な欲望によるものではなく、「神」がこの世界を創りたもうた御技をより理解することによって、さらに「神」の偉大さを知るという目的のために行なわれるものであり、根底に大きく「信仰」という概念が存在している。
このように科学のありかたと、宗教との関係を唱えたものとして、本書は大変興味深いのだが、残念ながら未完の作品である。
原題:「NEW ATLANTIS」1627
著者:フランシス・ベーコン(1561-1624)
(C)岩波書店