イギリス人、ジョナサン・スフィフトが18世紀に描いた、子供の頃に誰しも一度は見聞きしたことがあるであろう、ユートピア物語。
小人国(リリパット国)、大人国(ブロブディンナグ国)、ラピュータまでは、童話によく登場するが、その後の、学者の国バルニバービ、霊能力者の国グラブダブドリップ、不死の国ラグナグ、日本、馬の国フウイヌムと、その続きにはまだ多くの物語がある。
なかでも、馬の国フウイヌム国渡航記は、全編の中で最も多くの文章量で描かれている。(本編424ページ中、120ページ。最も短い、日本への渡航記はわずか5ページ)
馬の国には、知的で高貴な精神を持つ、馬の姿をしたフウイヌムと、人間の姿をした野卑で下賎の人獣、ヤフーが存在し、ヤフー達はフウイヌムの家畜として、掘ったて小屋で泥水を飲んでくらしている。フウイヌムの特質を、人間の中で最も優れた気質、美徳を兼ねた者よりも高次のものとすることで、野蛮で協調することを知らず、ずる賢く、意地が悪く、陰険で復讐心に富み、体は強くて頑丈なくせに臆病であり、そのために傲慢で卑屈で残酷という、おおよそ悪徳のかたまりのような、本能のままに生きるヤフーを、人間の風刺として描いている。
ガリバーはヤフーと同じ容貌を持ち、精神においても、高貴なフウイヌムよりも野蛮なヤフーに近い特質が自分にあることを実感し、フウイヌムの一員となり、この国で一生を送りたいと考えるが、ガリバーを、毛色の違ったヤフーといった程度にしか認識しなかった多くのフウイヌムにより、追放されてしまう。
ここで出てくる「ヤフー」とは、検索サイト、「Yahoo!」の語源であり、開発者のジェリー・ヤンとデービッド・ファイロは、この名称を、「Yhaoo」がインターネット利用者に変わって、奴隷のごとく奉仕するという意味合いで名付けている。

原題:GULLIVER’S TRAVELS(1726)
著者:ジョナサン・スウィフト(1667-1745)
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