第3次世界大戦後の放射能灰が降り注ぐ世界を舞台にした作品。限りなく人間に近く、「フォークトカンプフ感情移入度測定法」※という、対面での問答によってしか、人間ではないことを判別することのできないアンドロイド、「レプリカント」と、人間を殺害し続ける彼らを追う人間の刑事、デッカードを通して、「人間とはなにか」という問いかけをおこなっている。人間とアンドロイドの比較や精神、意識、アイデンティティーの問題に関しては、アイザック・アシモフをはじめとするロボットSFの先駆者たちが繰り返し描いてきたテーマだが、本作は小説よりも1982年公開の映画「ブレードランナー」がSF界に与えた影響が大きい。アジアンテイストを多分に盛り込んだ無国籍風な町並みと人々、「漢字」の使用、この作品により80年代には、「ブレードランナー」と世界観を共有してしまっているようなサイバーパンクSFが多数描かれた。特に、シドミードのデザインしたスピナー、タイレル社社屋などは、のちに続く多くの作品にまったくそのままの姿で模倣されている例をよく見かける。「近未来=ブレードランナーの世界」という図式まで作り上げてしまったのではなかろうかと思わせる、世界中にカルト的心棒者を有する傑作。
※質問をする人間の判定員と、隔絶した場所に、回答をする機械と本物の人間を用意し、問答を繰り返した結果、判定員が、どちらが本物の人間であるか区別がつかなかった場合、その機械は「思考」している。
とする、計算機科学の父アラン・チューリングが1950年に提唱した「チューリング・テスト」と呼ばれる理論が、この、人間とアンドロイドを識別する際に、質問の応答と表情の変化などをもとに、「人間の判定員」が判断をくだす、「フォークトカンプフ感情移入度測定法」の、アイディアの起源であると感じる。

原題:「Do Androids Dream of Electric Sheep?」1968
著者:フィリップ・K・ディック(1928-1982)

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